老舗鮎料理店「鮎正」、移転先で営業開始-道路計画の立ち退きで

「鮎正」の新店舗。山根さんのほか長姉が経理、次姉が女将、本店は末姉と甥夫婦と、家族で切り盛りする。

「鮎正」の新店舗。山根さんのほか長姉が経理、次姉が女将、本店は末姉と甥夫婦と、家族で切り盛りする。

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 鮎料理専門店の「新ばし 鮎正」(港区新橋4、TEL 03-3431-7448)が10月1日、新築移転した店舗で営業を開始した。同店は都の環状2号(通称マッカーサー道路)建設計画に伴う立ち退き要請を受け、8月31日で旧店舗を撤退。9月は新店準備のため休業していた。

昭和の香りを漂わす移転直前の「鮎正」

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 同店は1963年創業の天然鮎専門料理店。鮎は島根・高津川の天然物のみ使用するというこだわりと、丁寧に調理する独創的な料理が多くの食通から支持されてきた。昨年12月発売の「ミシュランガイド東京」でも、1つ星の料理店として紹介されている。鮎の季節は6月から10までの5カ月。そのため、前年から予約を入れる客もいるという。

 旧店舗は旧日比谷神社に近い、新橋4丁目西口通りの角にあった。周囲は少しずつ更地になり、7月31日に日比谷神社が汐留に移転した後は、「ポツン」と同店だけが営業を続けていた。「都からの計画説明が遅かったことや、鮎の旬である夏場に閉店するわけにいかず、移転が遅れた」と同店店主・山根恒貴さんは話す。

 山根さんは島根県・日原の出身。生家は同店の本店でもある「割烹 美加登家」を営む。近くを流れる高津川は、日本で唯一のせきもダムもない一級河川。子どものころから鮎は身近な存在だった。「川で鮎を釣って遊び、稼業も鮎料理。正月には干し鮎のだしに丸餅を入れた雑煮を食べるのが習わし」。その雑煮は鮎正でも新春の味としてメニューに並ぶ。

 創業者である山根さんの兄は、築地で鮎の卸しをしていた。「日原で店をやっていても将来は先細る。東京に出るべきだ」という父の意見で、新橋に最初の店をオープン。68年ごろ旧店舗のあった土地を購入し、店を建てた。しかし兄が病に倒れ、5人兄弟の末っ子だった山根さんが店を継ぐことに。高校卒業後、上京。他店での修行を経て、料理界の重鎮・西村元三朗に師事した。

 地元の郷土料理をベースにした鮎料理は話題を呼び、経済界の著名人も多く通う店となった。鮎料理は単品のほかコースが11,000円、13,000円、15000円の3種類。鮎は本店より直送される。6月の解禁後は小ぶりで香り高く、夏場はコケを食べ脂が乗ってきて、秋になると「落ち鮎」となり子を持つ。味だけでなく時期ごとに調理法も変わる。常連はその変化も楽しみにしているという。酒は「華泉」など島根の日本酒を多くそろえ、自家製梅酒などもある。

 築44年の旧店舗は、新橋の多くの古い店がそうであるように、立ち退きを見越して当時のまま維持してきた。「おんぼろの狭い店内でみんな小さく肩寄せ合いながら食事をしてくれた。雰囲気は居酒屋(笑)」と山根さん。壁は客の背中が当たるためはげ落ち、ひびの入ったガラス戸はセロテープで補修してあった。「常連さんが、自分で連れて来たゲストに『汚くてすみません』とわびたことも(笑)」。

 新店舗は旧店近くの第一京浜寄り。地上3階建て、土地面積は22坪。都が用意したのは台形の18.1坪だけで、「あまりにも狭かった」(山根さん)ため、裏側の2メートルを買い足して新築した。1階はカウンター9席、テーブル3卓。2階は個室が4つで、3階は倉庫兼仮眠室。カウンターや照明など旧店舗から移築したものもあり、配置も以前と同じ。常連客は「変わっていない」と喜んでいるという。

 営業時間は17時~22時。6月~10月の鮎の時期は日曜のみ休業。11月からはカニやアンコウ、フグ、鴨などのコースを提供し、日曜・祝日と第2・第4土曜が休業。

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