新橋駅近くで34年にわたり営業を続けてきた神戸牛ステーキ店「神戸館 酒炉」(港区新橋2、TEL 03-3501-2697)が2月4日で閉店する。理由は店主の高齢化による引退のため。
店主は旧満州生まれ神戸育ちの山根由利子さん。山根さんは生家の旅館を継いで経営していたが、夫の仕事の関係で東京に転居。「商売人の家で育ったので専業主婦では物足りず、何かしたかった」と、飲食店の開業を決めた。「神戸で大井の肉といえば知らない人はいない」(山根さん)という「大井肉店」(兵庫県神戸市)の社長(当時)と山根さんの夫が友人だったため、同店を開業。1970年代当時、東京では牛肉のステーキそのものが珍しかった。「東京は豚肉ばかり」と山根さんは振り返る。
店は新築のスケルトン。広さは20坪。当時の保証金は、現在の同等物件と比べ20倍近い数千万円だったという。ゆったりとしたソファ席とカウンター、プライベートなコーナー席は約34人を収容する。手入れの行き届いた店内は昭和で時が止まったかのようだ。時間の流れと共に調度品もアンティークとなり、中央には使われなくなった電話ボックスも残る。店の電話は今もダイヤル式黒電話。
牛肉は全て大井肉店からの取り寄せ。神戸牛メニューは、「神戸牛のステーキ(100グラム)」(4,000円~)、「神戸牛銀串焼」(3,800円)、「神戸和牛サイコロステーキ」(2,980円)、「神戸牛焼みぞれ」(2,800円)、「神戸牛一口カツ」(3,800円)、「肉刺」(1,500円)など。ステーキコースは「須磨コース」(8,000円)、「六甲コース」(1万円)。そのほかの料理は480円から。アルコール類は550円からで、高級ウイスキーやブランデーがそろう。
当初はシェフを雇い、ホールスタッフも8人が交代制で勤めた。高度成長期とバブル、店は多忙を極めた。来店客は会社経営者や幹部などの富裕層ばかり。「景気の良かった不動産業者がかばんいっぱいの札束を見せてくれたことも(笑)」。著名人も少なくなかった。しかしバブル崩壊後、会社が倒産し姿を見せなくなった客や、負債を抱え自ら命を絶った常連客もいるという。
店も以前の忙しさはなくなり、8年ほど前からは調理も全て山根さんが行う。スタッフも3人となった。常連客には30年以上通う人もいるが、近年は高齢化する客を見送ることも増えた。「すごく悲しいこと。元気な人ほどあっという間に逝ってしまう」。閉店は3カ月ほど前に決めた。「もう体がきつい。娘も心配している」。閉店を惜しむ常連客も多いが決心は変わらない。「34年、たくさんの人に出会え、とても楽しく幸せだった」。今後については、「しばらくは手つかずだった家の片付けでも(笑)」。
閉店に伴い、ドリンクの半額セールや割引を行う。営業時間は17時~24時。