大学4年生を中心とした学生グループが9月8日、新橋に焼酎バーをコンセプトとした居酒屋「あるばか」(港区新橋2、TEL 080-5867-6722)をオープンした。場所は桜田公園近くの地下1階で、つぼ焼き専門店「鈴蘭」跡。
同店を経営するのは現役大学生14人で、うち11人が来年4月に就職が決まっている4年生。運営に社会人は関与しておらず、来年度以降は経営をグループの後輩らに引き継ぐという。同店代表は石塚泰斗さん(21=神田外語大4年)。統括兼財務を会計システム会社に内定している新藤遼介さん(21=千葉大4年)が担当する。
石塚さんと新藤さんは就職活動中に出席した就活セミナーで意気投合。以降、同じ学生団体に所属し、社長を講師に招いたセミナーなどのイベント運営や早朝勉強会などを企画してきた。そうした活動を通じ、夢を語り合ううちに「残された200日近い学生生活をどう過ごすか」について考えるようになったという。
「バイトして旅行に行ってというのは、社会人になってからはできないことと言われる。だったらそれができる社会人になればいい」(同店ブログ・石塚さんのスレッドより)。新藤さんも「内定はゴールではない。どれだけその会社で価値を生み出すか」とし、「今のうちに一生分遊んでおこうとするのは、将来に対して後ろ向きな気がした」(同・新藤さんのスレッド)。
「全力で夢中になれる何か」を求めていたそのころ、知人から「居酒屋を引き継がないか」という話が舞い込む。石塚さんは「やりたい」と即答。「居酒屋は社会で必要とされる多くのビジネスを含む。仕込みなどの物流、人事・マネジメント、財務管理、内装・リフォーム、食品、接客、広報。将来目指したい部分を社会レベルで挑戦できる」と石塚さん。
新橋以外の候補地も見て回り、不動産会社と交渉し仕入れ先を開拓した。「車がないので、大量に購入した一升瓶の焼酎や冷蔵庫も電車で運んだ(笑)」という。授業があるため、店に立つのは交代制。営業時間も終電に合わせた。入社式が重なり「臨時休業」という日もあったり、メンバーによってはこれまでのバイトと並行して働く者もいたり、学生らしさも残る。
ターゲットは学生ではなく社会人。「学生が経営していることを前面に出さず、飲食店激戦区の新橋にある居酒屋の1店として挑戦したい」と新藤さん。アルコールの品ぞろえや料理の質なども、学生レベルではなく、厳しい目を持つ新橋のサラリーマンが満足する内容を目指す。「会話の中で大学生の経営だと知ると驚かれる」(新藤さん)という。
資金はメンバー全員による共同出資で、出資額に応じて配当を受け取る。「当初会社形式にする予定だったが、来春後輩に引き継ぐため責任の所在が難しく断念した」と新藤さん。インテリアは内装会社に内定したメンバーが担当、接客は大学でホスピタリティーを専攻するメンバーが指揮するなど、「適材適所」で運営する。「売りは人材。店の経営は金銭ではなく、経験を買うのが目的」(新藤さん)。
メーンのドリンクは焼酎。味にこだわり、割氷とミネラルウオーターで提供する。芋・麦・米・栗・黒糖・泡盛など約30種の銘柄をそろえた。価格は銘柄にかかわらず450円均一。「年内までに50種を用意したい」と、食品責任者の高橋善郎さん(専修大4年)。父親が下北沢で小料理屋を経営し、就職先も食品メーカーという高橋さん自身も料理が得意。メニューの多くは高橋さんが考案し、マニュアル化した。
メンバーゆかりの料理もメニューに上る。「みそきゅうり」のみそだれと「卵焼き」(400円)は、調理師である大和まゆさん(明海大4年)の父親直伝によるもの。「遼介炒め」(550円)は、進藤さんの実家である長野市内の定食店の人気メニューから。目玉は手作りしている薫製盛り合わせ(500円)。「これはぜひ食べてほしい」と高橋さん。
店舗面積は6坪、席数10席。客単価は2,000~2,200円で、売り上げ目標は月額90万円。9月の売り上げは日数が少ないながら、目標に近い数字を出し、「継続できるめどが立った」(進藤さん)。投資分も年内に回収できる見込みだ。プロジェクト発足当初は心配したという保護者も客として訪れるなど応援してくれているという。来店客の半数は一般客。「社会人になって訪れた居酒屋で一番良かった」という声ももらった。
「社会人が満足する価値をつくることができ、代替わりしても組織を継続できたら社会的にも価値あるものになるのでは」と石塚さんは考える。メンバーの夢は、「社会人として『あるばか』に客として行くこと。年を重ね、自分たちを創業メンバーだと知らない世代が経営していたら面白い」。
営業時間は17時~23時。土曜・日曜・祝日は要予約。