汐留のホテル・コンラッド東京(港区東新橋)で12月23日、アイマスクを着用してフルコースの食事をする「クラヤミ食堂」が開催された。企画は博報堂(港区赤坂5)の企業大学内組織「こどもごころ製作所」(同)で、ホテルとのコラボは初。高級ホテルと暗闇での食事という非日常に、100人の参加者は視界を奪われ戸惑いながらも貴重な体験を楽しんだ。
男性4割、女性6割という参加者の年齢層は幅広く、平均年齢は男性36歳、女性32歳。当日のコンラッド東京2階の宴会場スペースでは、エントランスやロビー、トイレに至るまで照明を抑え、闇の世界を演出。チャペルでの参加同意書へのサインに続き、数多くのキャンドルが揺らぐ大ホールではウエルカムドリンクが振る舞われ、期待と不安に満ちた面持ちの参加者を盛り立てた。
最終の説明と案内が済むと、参加者は光のもれない特注のアイマスクを装着。席への案内は1対1で行われたが、参加者は皆一様に不安げな様子で、一歩一歩足元を確かめるように歩を進めた。全員が席に着くと、視界を閉ざされたまま周囲とあいさつ。それを契機に会場は水に石を投じたように会話の輪が広がった。「こどもごころ製作所」によると、「見えない心もとなさから人と触れ合いたくなる」という。
同イベントではメニューや食材の説明などはあえてせず、料理のイメージをストーリー化して朗読する。今回は同ホテルのフレディ・シュミッド総料理長によるフレンチ・フュージョン。美しく盛りつけられた料理はリアルタイムでは見ることができない。この日が誕生日で、同イベントは友人の招待という千葉在住のヒロセさん(女性会社員)は「帆立がどうしても1つ見つからなかった。付け合わせの野菜にも気付かなかった」。
友人に誘われて参加したというコウヘイさん(男性会社員)とイノウエさん(同)は、「面白い。見えないのは自分だけなのではという気がした。『ドッキリ』パーティーとして忘年会や家でもやってみたい」。上司とともに徳島から出張扱いで参加したというタケウチさん(女性)はサービス業。「コミュニケーションの勉強になった」。夫の希望で参加した川崎市の主婦・カミヒラさんは「主人と離れ離れに座らされて不安だったが、意外に楽しめた」と笑顔で答えた。
博報堂の同イベント広報担当者は「ホテルでの開催は初めての試みで不安があったが、お客さまの満足度が非常に高く、良かった。特に演出の部分での満足度が高かったようだ」と話す。「今後も機会があればホテルやその他の施設とコラボしていきたい」とも。
テーブルのどこに置かれたのかわからない料理を「声だけの仲間」と共同で探し、食材がわからないまま手探りで食べるという行為に参加者らは喚声を上げ続け、すっかり子どもに帰った様子だった。