肉牛300頭を飼育する福島県の「エム牧場浪江農場」(双葉郡浪江町)牧場長・吉沢正巳さんが10月24日、東京電力本店(千代田区内幸町1)へ牛の飼料や牧柵建設費用などの負担を求める要望書を手渡した。
吉沢さんはこの日、9時ごろからSL広場(新橋2)の宝くじ売り場前路上で牛の救済を訴える街頭演説を実施。その後牧場スタッフと共に東京電力本店へ向かった。「手土産」には、牧場敷地内で栽培していたシイタケを用意。同シイタケは、専門機関で調べたところ4万ベクレルの放射性物質が検出されたという。「食べようと思っていたがこれでは無理。楽しみに育てていたのに」と吉沢さんは悲しみの表情を浮かべた。
東電側へは20日にも要望書のコピーを送付。同書には青草のなくなる11月~5月の越冬用飼料代2,500万円、放浪している牛たちを囲い込む牧柵建設用資材と人材2,500万円、仮設住宅電気料金の東電負担などが盛り込まれている。要望書と汚染シイタケを受け取ったのは、福島原子力被災者支援対策本部・福島原子力補償相談室課長・大塚紀之さん。シイタケは検査機関に出し、送付した要望書は「まだ確認していない」とのことで、これから確認・対応を行うという。
吉沢さんは「抗議ではない。交渉。私たちは待てない。冬はすぐそこに来ている。そうすればまた犠牲が出てしまう。腹を減らした牛がうろつかないよう、周囲5キロにわたる柵を建設し、飼料を与え、命を残したい。それを東電が負担するのは当然。国には、牛たちを見殺しにして福島の復興はありえるのかと問いたい」と語気を強める。
国は当初から警戒区域内に立ち入り牛の世話を行うことや餌を与えることを禁じており、餓死や殺処分が進んだという。「震災から7カ月がたち、畜産農家の多くは精神的に疲弊してしまった。『置いてきて牛に申し訳なかった』と苦しむ人や、夢に見てうなされる人もいる」と吉沢さん。今後立ち入り許可が取り消される可能性もあるといい、「その場合は立てこもりも辞さない」構え。
吉沢さんは3月17日から月に数日、新橋を中心とした街頭演説と東電本店への直訴を続ける。同牧場では現在、他の牧場から受け入れたものも含め、330頭の牛を抱える。