桜田公園内の生涯学習センター(港区新橋3)で11月6日、「新橋麒麟寄席・麦生亭」が行われた。当日は同公園でイベントが開催されていたこともあり、用意した25席を超える30人以上が観覧した。
キリンビールが主催する同寄席は毎年、春と秋に開催されれている。入場は無料。会場が狭く、演者と観客の距離感が近いのが特徴。港区で事業を行う清原逸夫さんは、「無料で2席見られるのはありがたい。落語が好きなので毎回楽しみにしている」と話す。
当日、高座に上がったのは芸歴13年目の三遊亭金兵衛さん。演目は、おめでたい席で演じるという「つる」と、忠臣蔵の歌舞伎舞台を題材とした「淀五郎」の2席。開場前から定員を超える観覧希望者が集まり、事務局は急きょ整理券を用意するなどの対応に追われた。
落語好きの元同センター所長による開催のあいさつも、前座と見まがうような小話調に。笑いの渦に包まれた会場へ金兵衛さんが登場。世間話から観客を引きつけたまま、1席目の上方落語「つる」が始まった。観客は金兵衛さんのコミカルで豊かな表現力に魅了された。
2席目の「淀五郎」は、江戸時代の歌舞伎役者の心情を描いた名作。約45分という長編のうえ、演者に歌舞伎の知識や演技力が求められるため、あまり演じる噺(はなし)家はいないという。金兵衛さんがそうした難しい演目を選んだのは「歌舞伎が好きだから」。学生時代から歌舞伎に足を運び、義太夫の心得もある金兵衛さんならではの名演技に観客は息をのんだ。
少年時代、親にテレビを禁じられ「勉強するふりをしてラジオで落語を聞いていた」という金兵衛さん。大学時代は漫画家の故・手塚治さんの「一流のものに触れておけ」という言葉でいろいろな芸術に足を運んだ。そのなかで「一番肌に合ったのがやはり落語だった」という。大学卒業後、地元の友人の「落語家になったら」という後押しもあり、入門を決意。三遊亭小金馬さんに弟子入りした。
毎月都内各地で定期公演を行っている金兵衛さんは、2001年に二ツ目に昇進。現在持ちネタは130余りという。先々は「200話くらいは演目を覚えたい」と金兵衛さん。着々とファンも増え、同寄席も訪れた客の3分の1が常連。「毎年麒麟寄席に来ているが、どんどんうまくなっている」という声も聞かれる。
次回開催は来年5月を予定。