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浜松町の老舗弁当店が閉店・移転へ-周辺再開発に伴い

外観は創業当初からほとんど変わっていない。店内の壁は「2006年の大みそか、ラジオで紅白歌合戦を聴きながら塗った思い出がある」(井上さん)

外観は創業当初からほとんど変わっていない。店内の壁は「2006年の大みそか、ラジオで紅白歌合戦を聴きながら塗った思い出がある」(井上さん)

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 1980(昭和55)年創業の浜松町の老舗弁当店「お弁当のかわの」(港区浜松町1、TEL 03-3432-2560)が6月7日で同地での営業に幕を下ろす。

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 同店は「食事処かわの」として、初代店主の河野和子さんが創業。カウンターのみの食堂として営業する傍ら、弁当を販売。弁当が人気を呼び、1982(昭和57)年に現在の弁当店「お弁当のかわの」に業態転換。「弁当500円均一」は、創業当初から変わらない価格設定となっている。

 2007年1月、現店主の井上さんが経営を継承。当初は1日の来客が100人にも満たず、「不安しかなかった」(井上さん)。そんな折、客からの「500円なんだから、大した食材使ってないんでしょ」という言葉で情報発信の重要性を認識。「旬のものや良い食材を使っても、伝えなければ意味がないと気付いた」という井上さんは、ホームページを作成し、その日提供する弁当の献立や使用食材の産地などを毎日発信するように。以後、来客数や客の反応が着実に良くなり、現在は、繁忙期にあたる12時~13時には20メートルを超える行列ができるほどの人気店に成長した。

 閉店は「浜松町一丁目再開発計画」に伴うもの。木造建築物や旧耐震基準の建築物が多く残るエリア約0.7ヘクタールを再開発。地上38階、地下1階の、住居や商業施設、子育て支援施設などを含む複合施設を建設する。

 客との交流も大切にする井上さん。特に心に残っているという言葉は、常連客の「ここは一日の中で唯一まともなものが食べられる場所」と「私、今日初めて人としゃべった」だという。「食材にこだわっていることが認知されていることと、店がこの地に根付いていることが伝わってくる言葉だった」(井上さん)。「創業当時から20年以上通ってくれた人もいたし、花見やオフ会に誘ってくれる常連さんもいる。この場所を離れるのは寂しいが、この店で生まれた出会いをこれからも大切にしたい」

 同所での営業終了後は「徒歩1分以内の場所」への移転が決まっている。移転については、「最初は弁当屋そのものを続けるか迷ったし、続けるにしても少し休んでからと思っていた」というが、常連客からの「この店がなくなったらどこでお昼を食べればいいのか」「1日も早く戻ってきて」などの閉店を惜しむ声を受け、営業の継続を決意。「すぐに次が見つかって一安心。無職にならずに済みますからね!」と、井上さんは豪快に笑う。新店舗(港区東新橋2)での営業開始は今月17日を予定。それまでの間は「姉妹店のカレー屋『スジ田中』を利用してほしい」。

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